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幼馴染と刺繍をこよなく愛する魔法使い。

羽守藤乃(IC:梓乃絵師)

Author:羽守藤乃(IC:梓乃絵師)


ブログ内に掲載される作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』及び『サイキックハーツ』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
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孤空

 武蔵坂学園に来るまでは、自分が空を飛べる事など全く知らないでいた。



◆◆◆



 高校へ進学して、少し経った頃。どうにも修行に集中出来ない、という時があった。
 疲れているのか、と自室で休んでみても落ち着かない。ならばと刺繍をしてみるものの、やはり集中力に欠け途中で針が止まってしまう。

 居た堪れない。

 自分の家の、自分の部屋だと言うのに、そんな心地になるとは一体どうした事なのだろうか。
 訳も分からず、ふと目についた庭に出て ―― 立てかけてあった箒を見つけた。
 その日は、偶々自分以外はほぼ出払っていて、当然ながら庭に人など居なかった。誰にも見られない、という事が頭にチラリと過ぎった時には手の内に箒があって、気づいた時には目の前は一面の空。依頼以外で初めて飛んだ、と気づいたのは自宅が見えなくなるくらいになった頃だ。
 そう、武蔵坂学園に来るまでは自分が空を飛べる事など全く知らないでいたから、ただ掌から放つ魔法の矢を何が何だか分からないまま幼馴染に披露する、それだけで ――





『希沙ちゃん、ご覧になって?!』
『ふぉぉ!今のナニ?光って飛んでった!』

 幼馴染の瞳がキラキラと瞬くのが、藤乃の心を弾ませる。
 外に出ると怪我を気にして過ぎるほど慎重になっていた幼馴染が、久しぶりに外で見せた笑顔。それを見る事が出来ただけで、自分がどうなったのかなど心底どうでも良かった。

『希沙ちゃんと、一緒ですわ』
『きさ、と?』
『不思議な力で……血が燃える希沙ちゃんと、手から光が飛ぶ私……ね、一緒でしょう?』
『……ふじと、一緒……』

 本当の事を言えば、一緒だという安心を与えたいわけではなく、血が燃える事を治したかった。その為に何か手がかりがないかと、修行の合間を縫っては本を読み漁り続けた。その内に、何かの弾みで手から光が飛び出していく事に気づいて、今に至る。
 いつか、きっと。
 希沙が思い悩む血の憂いは取り払ってみせる、と固く決意をしている藤乃ではあったが、今は少しでも憂いを軽くする方を優先する。実際、解決方法が見つからぬ以上はそれしか出来る事がない。

『でも、厭やないの、ふじ……気味悪いやろ、きさと一緒、なんて……』

 微塵も思った事は無い。
 寧ろ希沙の血が燃える様は、藤乃を美しく眩く魅了した。文字通り彼女の命の輝きを映す炎に見惚れて、束の間、手当が遅れてしまう事があるほどに。その僅かな間を彼女が誤解してしまっているのだとしたら、見惚れていると素直に告げたとて、彼女に根深く巣くう厭わしさを払うことは出来ないだろうから ―― 敢えて問うた。

『希沙ちゃんは……手から妙な光が飛び出す私を、気味が悪いと思われますか?』

 俯いていた顔が跳ね上がり、言葉にするのももどかしいとばかりの勢いで横に振られる。

『私も、一緒ですわ。希沙ちゃんが気味が悪いなどと、決して思いません』

 今度の笑顔は、儚く弱く。






 空に溶けていった。






 ああ、そんな事もあった、と夜空の深さに眼を細めた。
 空の道行きの徒然は、優しい昔を思い出させる事もあって藤乃の口元を仄かに綻ばせる。ただ、それは極めて稀な事であって、常の道行きの殆どは漠然と流れていくだけだった
 空にぷかりと輝く月も、ささめく星の瞬きも、頬を撫でる風の鋭さも、箒を握る指先の凍えも、一つとして藤乃を揺らがせる事がない。
 揺らがぬまま、居た堪れなさが溶け崩れる様を見詰めている。
 束の間、道行きの時間が最初の頃に比べて徐々に延びてきている事や、箒を手に取る間隔が狭まっている事が浮かぶ時もあれど、それは気泡のように小さく弾けるだけで漣すら起こしはしない。
 今日とて。
 散歩というには長すぎる道行きを終えて庭に降りた時も、ごく静かに部屋へと戻った。戻ってみれば、何という事はない普段通りの自分の部屋に緩く息を吐く。
 修行をして、学校へ行き、クラブ活動を行い、依頼をこなし、時には戦争を乗り切って。
 加えて、道行きが多少延びたとて影響は無いだろう。身体の感覚がそれを告げている。
 ならば、問題はあるまい。
 もう幾度目かになる結論を、改めて出す。
 疲れている訳でもなく、かといって空を飛ぶことが楽しい訳でもない。だが、それが何だというのだろう。
 明けてくる日常に、影響が無いのであれば。

 特段、考えることは無いのだ。

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