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幼馴染と刺繍をこよなく愛する魔法使い。

羽守藤乃(IC:梓乃絵師)

Author:羽守藤乃(IC:梓乃絵師)


ブログ内に掲載される作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』及び『サイキックハーツ』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
イラストの使用権は作品を発注した藤里蒼泉及び羽守藤乃のPLに、著作権は各クリエーター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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毒鈴香 if ~篠村希沙~

 其の女は、静寂に佇んでいた。
 胸元を彩るジュエリー、腰に連なる珠、豪奢な付け爪、揺らめくイヤリング……ふんだんに身を飾るアクセサリーすら、ひそともせず、ただ衣擦れの漣だけが耳を打つ。温度を感じさせぬ肌を走る紋様の為か、纏うヴェールの為なのか、静けさとあいまって妙に植物めいた印象を受ける。
 其の女こそが。
 鈴香と名乗る、ソロモンの悪魔 ── 闇堕ちした羽守藤乃、その人であった。



◆◆◆



 少し大人びているけど、かなり面影は残っているから分かると思う。
 脳裏に甦ったエクスブレインの言葉に、逆だろう、と声無きツッコミが重なる。
 確かに、ソロモンの悪魔は人とは思えぬ姿を取るものも多い。それに比べれば、エクスブレインの言葉は妥当なのかもしれない。しかし、藤乃を知る者にとってみれば、『かなり』大人びているけど『少し』面影が残ってる、というのが的確であったろう。
 そんな心中を察したのかどうか、鈴香がゆらりと嗤った。

「歓迎、してよ。灼滅者たち」

 夜の闇にしっとりと薫(くゆ)る声が、雫が滴り落ちるかのように言葉を形づくる。
 聞く人によっては魅惑的に響くであろう声も言葉も、藤乃を取り戻すつもりの灼滅者たちには、背筋を泡立たせる効果しか産まない。
 篠村希沙は、背筋どころではなく ―― 肌が総毛立つ、その感覚を。
 奥歯を噛み締め、ひたすらロケットハンマーを握りこむ事でやり過ごす。
 力を込めた腕から、しゃら、と音が揺れ、希沙の瞳に映る柔らかな緑の羽根が、後退りしそうになる足を辛うじて止めた。

 藤乃を、連れ戻す。
 何が何でも。

 その決意を、藤乃から贈られたブレスレットとバレッタに込めて身につけて来たのだ。退ける訳がない。
 じり、と一歩。
 希沙が足を進めたところを狙い澄ましたかのように、鈴香の声が落ちる。

「美しさを秘めた、原石たち……わたくしは、なり損ないと蔑みは、しない、わ。磨けば、確実に光ることが、分かっているのですもの、ね」

 先程、暹花槌を握りしめた時はこれ以上は力が込もらない、と思った程だった。そう、思っていたのに。鈴香の語る言葉に、血の気の引く程の力が手に込もるのが分かる。
 この力が視線にも込もると良いと願いながら、希沙は鈴香を睨み据えた。

「なり損ないで結構。それに、あんたなんかに、認めて貰いたない!」

 声が。
 震えなかったのは上出来だ、と希沙は己を褒める。
 いっそのこと何もかもが違う容姿であれば良かったのに、僅かに面影を留める鈴香の姿が、藤乃が消えかけているという現実を煽るようで ―― どうしようもなく希沙の身を竦ませた。
 それでも、恐怖を相手に気取らせる訳にはいかない。戦う前から相手に呑まれるなど、あってはならぬことだ。
 だから。
 希沙の声に引かれるように流れた鈴香の視線を、せめてもの矜恃で受け止める。鈴香の瞳が希沙を見た瞬間に喜色に染まり、再び希沙の全身の肌が総毛立っても、決して視線は外さなかった。

「綺麗、綺麗な子。知ってる、わ、貴女。ずっと欲しかったのよ、わたくしの、愛しいお人形。さぁ……此方へ、いらっしゃいな。今、ならば、手ずから磨いて、存分に……愛でてあげてよ」

 ぽたり、ぽたりと、雨の滴が服を濡らすかのように、鈴香の声が空気に染み入っていく。灼滅者の意志など溶かしてみせようとばかりに、甘く、闇へと誘う声。声に潤む熱が、肌を灼くように嬲っていく。

「あんたのもんになった覚えないわ。勝手なこと、言わんといて。そもそも、あんたに磨いて貰わなあかん程、落ちぶれてるつもりはないんよ。わたしも、ふじも……ねぇ、ふじ。聞こえる? 帰るよ」

 外さぬ視線の先で、鈴香が嗤う。
 手にした髑髏を置き、これ見よがしに胸元をふわり、と撫ぜて。

「駄目、よ。これは、わたくしのもの。わたくしだけ……の、毒」

 子守唄でも口ずさむような柔らかな声音に、底冷えする気配が滲む。

「宝石が、インクルージョンで美しさを増すように…わたくしも、此処に毒を含んで、美しく在る、の。この、愚かで醜悪で、儚く藻掻く、毒…を、わたくしが飲み干すまで、大人しくなさい」

 毒が藤乃を指すのだとは、改めて問うまでも無い。悪魔に毒と評されるのを、皮肉と取るか、褒め言葉と取るかは判断の分かれるところだろう。
 希沙は、ダークネスにとって毒ならば、いっその事その方が良いとさえ思う。

「ごちゃごちゃと煩いな。その毒はぼんやりしてて自分のことに無自覚で危なっかしくて、でも、いつも一生懸命で、きさのこと考えてくれてて、優しくて……きらきらしてる。あんたなんかに絶対、渡さへん」

 一息に言いながら、腕を異形化させていく。
 恐怖も、一定量を過ぎれば怒りに変わるのかもしれない。そんな事を考えてしまう程に、希沙は怒りを腕に込めて、鈴香を睨み、口元を歪めた。

「代わりに、とっておきの焔をあんたにあげる。赤く朱く燃えて弾けて、ぜーんぶ真っ黒に焦がす業火やよ。お気に召すまで焼き尽くす!」

 ごう、と。
 唸りを上げて、腕を振るう。
 その先に嗤う鈴香は、付与されるバッドステータスを知らぬわけでもないだろうに、真正面から拳を受けた。
 小揺るぎもしないその姿に、希沙の口から思わず舌打ちが漏れる。
 それを聞いたか、くく、と鈴香の口から嗤いが零れた。

「美しい、お人形。エンハンスメントを、知って、いて? 宝石をより、美しくする、焔……貴女の焔は、わたくしを、より美しく彩る、でしょう。さぁ、麗しい焔を、もっと、わたくしに……」

 見せて、と。
 その口が象ったような気がした。
 言葉の途中で放たれた影業に、希沙も、他の灼滅者も必死で応じていたので、聞き取る事は適わなかったのだ。
 妖精の抜け落ちた鈴蘭は、まるで蛇のようにうねり撓って、希沙たちを襲う。
 使い手が違うだけでこうまで不気味になるのかと、再度舌打ちしたい気持ちに駆られた刹那、希沙の腕が一筋燃えた。
 浅手だと、見もせずに断じて、握りしめた暹花槌を地面に叩き付ける。鈴蘭の影に邪魔されて近づけぬ鈴香にもこれならば届くと顔を上げれば、眉宇を顰めた鈴香が希沙の瞳に映った。
 攻撃が効いたのかと、ホッと詰めていた息を吐く。そして、周りを見渡せば立っているのは希沙一人であった。
 いつの間に、と。
 慄然として次の瞬間には暹花槌を構え直したものの、棒立ちのまま奇妙な顔つきで此方を見つめる鈴香に、希沙も迂闊には踏み込めない。
 何か企みがあるのかも、と。
 動かぬ鈴香を見詰めた時間は、希沙にとっては恐ろしく長く感じられたのだが、実際はそう長くはなかったはずだ。
 見詰めた先、鈴香が二度三度と頭を振る。

 ぱたた、ぱたり。

 鈴香が頭を振るに合わせて、何かが飛んで床に落ちていく。
 鈴香が夥しいほど身につけているアクセサリーの類ではない。そんな音ではなかった。まるで、何か水滴のような。
 希沙がその正体に辿り着く前に、鈴香の唇から言葉が零れた。

「お人形……貴女のサイキックなの、かしら? 身体が、動かなく、て、視界が歪む、のは……」

 その言葉に顔を見れば、視界を晴らそうとするかのように瞬きを繰り返す鈴香がいた。その目に浮かんでは零れ落ちていく、それは。

「涙……泣いてるの?」

 希沙の言葉に、鈴香が訝しげに首を傾げている。
 そう、鈴香が、ダークネスが泣くなど……演技以外の何があるというのか。そして、鈴香の様子から演技ではないと分かる。
 では、泣いているのは ――

「……ふじ」

 鈴香の身体の自由を奪っているのも、サイキックなどではない。恐らく藤乃の抗う意志が、鈴香を縛り付け、そして泣いているのだ。

「ふじ、ふじ。そんな奴に堕ちる程苦しかったの? 辛かったの? ずっと傍にいたのに、気付けへんくてごめん。……ごめんね」

 ぱたり、ぱたり。
 希沙の言葉に反応するかのように、涙はひたすら流れ落ちていく。
 それなのに。

「厭、ね……毒が、回る、だなんて……小賢しい、こと……」

 零れる言葉だけは、鈴香のものでしかあり得なかった。
 希沙の言葉が届いていないはずはない、そうでなければ泣くわけがない。
 なのに、何故。

 応えがないのか。
 何を、泣くのか。

 希沙には分からなかった。藤乃が泣くなど、希沙には殆ど覚えがない事で理由の推測も出来ない。
 それがただ、悔しい。

「きさ、ちゃんとふじのこと見れてたんかな。……ちゃんと、話せてたんかな。ねぇ、話そう? しんどいことも、苦しいことも、そうじゃない気持ちも、何でもええの。全部聞かせて。きさも、聞いて欲しいことがあるんよ。いっぱい話して、全部吐き出して。ほんでね、最後にちゃんと笑えたら……また一緒に、簪を買いに行こう?」

 応えは、ない。
 それでも。
 藤乃が泣くのであれば、その涙を拭うのは希沙だと、そう思う。

「ふじの全部、きさが受け止めるよ。受け止めたいの。だから戻ってきて。ふじ」

 話しかける間、ずっとブレスレットを握りしめていた手が痛い。
 その手をブレスレットから静かに離して、暹花槌を構えた。

「ねぇ、ふじ……声を、聞かせて」

 ぱたり。
 落ちた涙が、応えだと。

 暹花槌を、渾身の力を込めて振り抜いた。



 すっ飛んでいった藤乃の身体が元に戻ったのを確認して、漸く希沙の全身から力が抜ける。
 目頭が熱くなるのを無理に拭って、駆け寄った。




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