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幼馴染と刺繍をこよなく愛する魔法使い。

羽守藤乃(IC:梓乃絵師)

Author:羽守藤乃(IC:梓乃絵師)


ブログ内に掲載される作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』及び『サイキックハーツ』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
イラストの使用権は作品を発注した藤里蒼泉及び羽守藤乃のPLに、著作権は各クリエーター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
※ 掲載されている全作品の無断転載を禁じます。

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秘して、隠して ――

かけがえのない、大事な品々。
何処にしまうかを考えた時に浮かんだのは、宗家の金庫でもなく、ましてや数度しか足を運んだ事のない瑠璃羽守本宅の蔵でもなく、倶楽部の場として使っている小さな隠れ家だった。



 冬晴れの朝。
 空は高く澄み、吸い込む空気はヒヤリと胸に染みた。
 そんな特別な用事も無い休日の朝方、それも朝食が済むか済まぬかという時間に、約束もない幼馴染が訪ねてくるのは珍しい事であった。

 突然の訪問がではなく、時間帯が、である。

 幼馴染は、彼女の祖父との時間をとても大事にしていて、朝食は必ず祖父と摂っているし、朝食後の藤乃は朝の鍛練があることを知っているからだ。
 その幼馴染が門前に来ていると告げた母親が、彼女が好きなおかずをあれこれ考えてソワソワと浮き立つ様子を横目に、藤乃は篠村のお爺さまが急なお出掛けでもなさったかしらと首を傾げて玄関に向かう。
 彼女は、独りが嫌いなのだ。
 幼い頃から、彼女の祖父が外出する時には必ず藤乃の家で時を過したし、彼女の訪問であれば、藤乃の家は何時であろうとも喜んで迎えるのが常であった。
 それでも学園に通うようになってからは頻度は減っていたし、彼女が来るのは大抵、藤乃の鍛練が終わった後だったから、やはり珍しい事には違いない。
 心持ち急ぎ足で玄関先に到着した藤乃の耳に軽い足音が届き、藤乃の手が伸びるより早く、カラリと戸が開く。続いた弾む声と全開の笑顔で告げられた希沙の第一声に、藤乃はキョトリと目を瞬かせた。

「ふじー!お誕生日おめでとう!へへ、お休みやのに来ちゃった。待ち切れんくて!」
「誕生日?私の?」
「昨日が先輩で、今日はふじ!一日違いなんて縁やね!」

 そう、確かに昨日は刺繍俱楽部の先輩の誕生日で、藤乃も拙い手ながら気持ちを込めて針を動かしていた。自分の誕生日が次の日だという認識もきちんとあったのだが、それでも、希沙がこうして来てくれるまではすっかり頭から抜けていた。
 藤乃がボンヤリと自分の誕生日を思い出している隙に、希沙は取り出した袋から真新しいハンカチを広げて見せる。

「あんね、これプレゼント!」

 希沙から手渡された淡く、ともすれば白にしか見えぬ水色の四角の中には、伸びやかな若葉。
 そっと葉を撫でる藤乃に、照れ臭そうな希沙の声が降る。

「この葉っぱはきさが縫ったの…か、会心の出来、の心算なんやけど……」
「まぁぁ、なんて素敵な……見事に会心の出来ですわ」
「葉の先は、ふじが望むお花を咲かせて欲しいなって」
「私が、この先を縫うなんて……いえ、頑張ります、希沙ちゃんと合作(ぐ)」

 藤乃の気合いを込めた返事に、希沙がふわりと花が咲くように笑い返す。

「春になったら高校生やし……ハンカチにも、進む道にも、ふじが願った通りの大輪が咲き誇りますように」
「ありがとう、希沙ちゃん。でも、どんな花が良いかは……じっくり考えさせて下さいね」

 ゆっくりでええよ、と手を振る希沙を見送って、藤乃は改めて葉を撫でた。
 春からの高校生活、そして願う花。
 どちらも、今の藤乃には余り実感が湧いてこない。
 それでも、いつか花を綴る日が来るのだろう。その花が、せめて希沙の目に美しく映ると良いのだけれど、などと考えながら部屋へと戻る藤乃に、母親の声が届く。

「あら、希沙ちゃんは?どんなご用事だったのかしら?」
「私に届け物をして下さったの。すぐ、帰ってしまって……」
「まぁ、それは残念だこと。久しぶりに好物を作ってあげられると思ってたのに」

 あからさまに気落ちした母親に慰めの言葉をかけるべきか、藤乃が寸の間躊躇っているうちに、唐突に顔を上げた母親と目が合う。
 どきり、と藤乃の心臓が跳ねた。
 ぎゅ、と貰ったハンカチを胸に抱えて立ち尽くす藤乃を、さして気にした風も無く母親は口を開く。

「そうそう。先程、藤乃さん宛に荷物が届いていましたよ。部屋に運ばせましたから」
「私、に……」
「えぇ、小さなものでしたけれど、いくつか」
「それは、お手数お掛け致しました。ありがとうございます」

 頭を下げた藤乃に軽く頷いた母親は、それきり振り返らずに立ち去る。
 その後ろ姿にホッと息を吐き、次いで踵を返して自室へと急ぐ。
 今日、この日に荷物が届いたというのなら、それは今抱きしめているハンカチと同じものに違いない。

 ならば、早く確かめなければ。

 何故こんなに気が急くのかなど、藤乃は考えている余裕もなく、自室の机の上に置かれた数個の箱を確かめて、何の傷も無い事に再度、安堵の息を吐いた。
 差出人を順番に見て、漸く口元を綻ばせる。
 刺繍倶楽部の仲間にクラスメートからの、贈り物。そうと分かるだけで、胸がほこりと温まる。
 中を検めるのも何だか勿体無いような、そして一刻も早く開けたいような、そんな矛盾した心持ちに震える手を叱咤し、そっと、出来得る限り丁寧に開けていく。

「……まぁ!」

 全て開け終え、一言漏らしたきり、藤乃は言葉も無く贈られた品に見入った。
 美しいブックカバーと揃いの栞。繊細な細工の懐中時計。不思議な色合いの石のお守り。そして、深い青の香水瓶。
 品の見事さも然る事ながら、何より添えられた言葉が、心が嬉しかった。
 その品も、込められた心も。

「大事に、しなくては……」

 決意を唇に乗せた、その時。
 何処に?
 と、疑念が閃く。
 大事に使う、その為にも大切にしまう。それは当然の事で ―― では、何処にしまうのか。
 ゆるり、と自室を見渡した藤乃の視線は、何処にも止まらずに机の上に戻り、考え込む程の時間は経たないうちに手早く荷物を纏めると藤乃は家を出た。
 向かうは、刺繍倶楽部の活動に提供している、祖父から譲られた家。
 家を出るまでは抑え気味に、出てからはやや小走り、そして目指す家に到着する頃には完全な駆け足で。
 切れた息を整えるのも惜しい勢いで、玄関を開けた藤乃は、クラブ活動では使っていない書斎に駆け込んだ。
 本家の自室と比べても小さい部屋。鍵の付いた抽斗も無い。鍵と言えば玄関に付いているだけで、それも簡素かつ部員の出入りで緩やかだ。
 それにも関わらず、藤乃は心から安堵した。
 此処でなければならない、と。
 此処ならば大丈夫、と。
 箱から取り出した数々の品を丁寧にしまい込んで、全身から力を抜いた。



◆◆◆



 帰り際、玄関で靴を履きながら、藤乃はふと書斎のある方へ目を向けた。
 どうしてあんなに焦ったのだろう、と。
 首を傾げ考え込もうとした刹那、ざわり、と背筋が冷えた。

「あら、いけない。こんな所で考え事なんて……風邪を引いてしまいますわね」

 走りに走って駆け込んだ時は汗すらかいていたものの、走るのを止めてしまえば汗など瞬く間に引き、気づけば身体も大分冷えている。
 いくら珠綬を頂いてからは一人前と扱われ、鍛錬も己の責務で行うようになったとはいえ、休みの日を一日空けていれば何か一言はあろう。まして、風邪を引いてしまっては、どれ程の叱責を受けるか分からない。
 早く帰って、鍛錬をこなさなければ。
 そう考えた時には、浮かびかけの疑問など藤乃の頭からは消え失せ ―― 歌すら口ずさみそうな気楽さで玄関に鍵をかけ、駆け込んだ時とは打って変わった落ち着いた足取りで、家路を辿った。
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